ピラティスと聞くと、「体幹が鍛えられる」「可動域が上がる」「女性が取り組むもの」といったイメージを持つ方が多いかもしれません。RePro代表の古賀武揚も、そうした側面はもちろんあるとしたうえで、ピラティスの本質はもう少し別のところにあると話します。
Podcast「RePro RADIO」第1回のテーマは「なぜ、ピラティスは身体を変えるのか」。ピラティスが身体にもたらす影響を4つの観点から掘り下げた回です。キーワードは「体を再学習する」。この記事では、その内容を整理してお届けします。
ピラティスは「筋肉を鍛える」より「体をどうコントロールするかを学ぶ」運動
ReProでもマシンピラティスを導入していますが、実際のピラティスはかなり運動学習的な側面が強いと代表の古賀は言います。運動学習とは、体の動かし方を脳と身体が繰り返しの中で覚えていくプロセスのこと。つまりピラティスは、筋肉を鍛えるというより「体をどうコントロールするかを学習していくもの」に近いのです。
そのためReProでは、単純に痩せるための手段としてではなく、姿勢改善やスポーツパフォーマンス向上まで含めて、かなり重要なものとしてマシンピラティスを取り入れています。近年はトップアスリートでも取り入れている選手が多い印象だといいます。
ピラティスは見た目こそ静かですが、体の中で起きていることは複雑です。脳科学や運動学習の視点から見ても理にかなっている部分が多く、古賀はその中でも重要だと考えるポイントを4つ挙げています。
- 過緊張の抑制
- 機能的可動域とボディマップ
- 動作の多様性
- 体が学習しやすいこと
1. 過緊張の抑制 ── 力を入れるのは得意でも、抜くのは苦手
現代人は力を入れるのは得意でも、力を抜くのが苦手な人がとても多い。背景には、長時間のデスクワーク、スマホによる前傾姿勢、音や光や通知といった刺激の多さがあります。いわば脳が常に働き続けている状態です。肩がずっと上がっている、呼吸が浅い、無意識に歯を食いしばっている。体験に来られる方でも、歩き方や座った姿勢の時点で過緊張だと分かるケースは少なくないといいます。
そもそも人間は重力に抗って生きているため、立っているだけでもある程度は筋肉が緊張しています(抗重力活動)。しかも頭が地面から遠くなるほど、体はより姿勢を制御しなければなりません。立っている姿勢は、実はかなり難しいのです。
だからこそピラティスでは、仰向けや座った姿勢など、比較的重力の影響を減らした状態で体をコントロールしていきます。過剰な力みを抑えながら体の感覚を学習しやすく、「必要以上に頑張らない」ことを体に覚えさせられるのがポイントです。
古賀自身、小学生の頃に所属していたサッカーのクラブチームで、リフティング100回ができた人から練習を抜けられるという場面で、最後まで残り続けた経験があるそうです。当時はなぜ上達しないのか分からなかったものの、今振り返れば必要以上に力んでいて、体をうまくコントロールできていなかったのだと振り返ります。うまく力を入れるのではなく、うまく力をコントロールする。この能力が身につくことで、肩こりや腰痛、動きづらさの改善につながっていきます。
2. 機能的可動域とボディマップ ── 柔らかさより「使える範囲」
「体が柔らかい=いいこと」というイメージがありますが、古賀はただ柔らかいだけではそこまで意味がないと考えています。大事なのはコントロールできる範囲が広いこと。開脚が180度できても、その可動域をコントロールできなければスポーツや日常では使えません。逆に、そこまで柔らかくなくてもしっかりコントロールできれば、体はかなり動きやすくなります。これが「機能的可動域」です。
もうひとつ、脳には体の地図のようなものが存在し、ボディマップ(ホムンクルス)と呼ばれています。よく使う部分ほど脳の中で大きく認識されやすく、逆にうまく使えていない部分は認識が曖昧になりやすい。体が硬いというより、脳がその範囲をうまく認識できていないというケースはかなり多いといいます。
ここで古賀が指摘するのが、日本ではマッサージやパートナーストレッチといった受動的なケアの文化が強いこと。気持ちよく、一時的に楽になることも多い一方で、誰かに動かしてもらうだけでは脳が体をコントロールする経験にはなりにくく、その場は良くなってもまた戻りやすいのです。マッサージやストレッチにも意味はありますが、長期的に体を変えていくうえでは、自分で能動的に動くことが重要になります。ピラティスでは自分で体をコントロールしながらさまざまな方向に動くため、脳に対して「ここまで動けるんだよ」と再学習させるイメージになります。
3. 動作の多様性 ── 不調がある人ほど、同じ使い方に偏っている
古賀が個人的に最も重要だと考えているのがこの観点です。腰痛などの不調がある人ほど、同じ体の使い方に偏っていることが多い。筋力が低いケースもありますが、最近の研究では腰痛がある人は同じ筋肉・同じ筋発火パターンを繰り返し使い続ける傾向があるという報告があるといいます。筋電図(筋肉の活動を電気信号で捉える計測)を見ても、毎回かなり似たパターンで筋肉を使っている。同じものを持ち上げる動作でも、違う筋肉を使えているか、いつも同じ筋肉なのか。腰痛の人は後者が多いのです。
これは体の使い方の選択肢が少ない状態です。人間の体は本来、状況に応じていろいろな筋肉を使い分けて負担を分散していますが、動きのパターンが固定されると毎回同じ場所が頑張ることになり、一部の筋肉や関節に負担が集中します。だから筋肉を増やす、筋力を上げるだけでは腰痛が改善しないケースもある。筋力は重要ですが、強い体だけでなく適応できる体も同じくらい重要だということです。
スポーツでも同じで、毎回まったく同じ動きしかできない選手は環境が変わると対応できません。いろいろな動き方ができる選手は応用が利きます。ピラティスではさまざまな方向に体をコントロールしながら動くことで、動きの選択肢=引き出しを増やしていきます。単純な筋トレというより、体に逃げ道を作る側面がある。同じ場所だけで頑張らない体をつくることが、不調改善にもパフォーマンス向上にもつながります。
4. 体が学習しやすい ── マシンピラティスは「結果」が返ってくる
4つ目は、特にマシンピラティスの大きな特徴です。人間の脳は結果から学習します。スポーツでも「今の感覚は良かった」「今のはうまくいかなかった」という経験を繰り返しながら動きを覚えていく。運動学習の世界では、これを knowledge of result(結果の知識)と呼びます。
マシンピラティスで身体を乗せる台の部分はキャリッジと呼ばれ、これがよく動きます。体をうまくコントロールできていないとブレたり、止まったり、ガタついたりする。逆にうまくコントロールできればスムーズに動きます。できているかどうかが、感覚ではなく結果としてそのまま反映されるのです。
たとえば「お腹を使ってください」と言われても、正直難しいと感じる方は多いはずです。スクワットでの「お尻を後ろに引いて」「背骨をまっすぐにして」も同じで、これらは knowledge of performance(動作そのものへのフィードバック)にあたります。その点マシンピラティスは、うまく動ければキャリッジがスムーズに動くという形で結果が返ってくるため、脳が学習しやすい。しかも比較的低負荷で行えるので、力任せにならず「どう動くか」に意識を向けやすいのも利点です。
まとめ
第1回で取り上げた4つのポイントを振り返ります。
- 過緊張の抑制:重力の影響を調整しながら、必要な力で動くことを学習する
- 機能的可動域とボディマップ:柔らかさより、コントロールできる範囲を増やし、自分で動くことで脳の身体認識を更新する
- 動作の多様性:さまざまな方向に動くことで、動きの選択肢=引き出しを増やす
- 体が学習しやすい:体の使い方が結果として返ってくるから、脳が学習しやすい
これらの理由から、ピラティスは単純な運動ではなく、体を再学習するためのツールとしてかなり有効だと古賀は考えています。ReProではただ鍛えるだけでなく、身体機能・運動学習・神経系まで含めて、一人ひとりに合わせた体づくりを行っています。とりあえず筋トレをするのではなく、なぜその不調が起きているのか、なぜその動きになるのかまで考えたうえでトレーニングを処方しています。一般の方からアスリートまで幅広い方にご利用いただいており、企業様向けに健康や体づくりに関するセミナーも行っていますので、ご興味のある方はお気軽にご連絡ください。
この回の内容は、Podcast「RePro RADIO」第1回でお聴きいただけます。