「運動しているのに痩せません」。パーソナルトレーニングの現場で、RePro代表の古賀武揚がよく受ける相談のひとつです。走っている、ジムにも通っている、食事にも気をつけている。それなのに体重が動かない。この「頑張っているのに変わらない」という感覚は、多くの方が一度は味わったことがあるのではないでしょうか。
Podcast「RePro RADIO」第2回では、古賀の高校時代からの友人で、現在は長崎県の飲食店で働く時侑也さんをゲストに迎え、ダイエットをテーマに語り合いました。前編となる今回は「運動編」。有酸素運動と筋トレが体の中で何を起こしているのかを、消費カロリーとは別の角度から掘り下げています。
ダイエットは「総合戦」。一つの要素だけでは決まらない
本題に入る前に、代表の古賀がどうしても伝えたい前提があると切り出しました。ダイエットは「食事が大事」「筋トレが大事」というように、一つの要素で語られがちです。けれど実際は、そんなに単純ではないという話です。
古賀はダイエットを、体育祭の総合戦にたとえます。足が速いだけでは総合優勝はできません。同じように、ダイエットも食事や運動だけでなく、睡眠、ストレス、自律神経、呼吸、生活習慣といった、いろいろな要素の総合点で決まります。とにかく変数が多いのです。
しかも、何が足を引っ張っているのか、どこがボトルネックになっているのかは人によってまったく違います。だからSNSでよく見かける「これで痩せました」という情報をそのまま真似ても、うまくいかないことが少なくありません。時侑也さんが「つまり土台が違うということですか」と返すと、古賀は「まさにそうです」と答えています。
運動量を増やしても、消費カロリーは思ったほど増えない
ここで古賀が紹介したのが、進化人類学者のポンツァー先生による『運動しても痩せないのはなぜか』という本です。運動量を増やしても、総消費カロリーは思ったほど増えない。そういう話が書かれています。
ポンツァー先生はこれを「制約された総エネルギー消費モデル」と呼んでいます。要するに、体はある程度、消費エネルギーを一定に保とうとする可能性がある、という考え方です。運動量を増やすと、体は他のところで省エネ化したり、無意識の活動量を減らしたりして、帳尻を合わせようとします。
「じゃあ運動って意味がないってことですか」。時侑也さんが率直に投げかけた疑問に対して、古賀は「そこがすごく大事なんです」と応じます。動いた分だけ消費カロリーが増える、という認識は世の中にあふれていますが、体はそこまで単純ではありません。運動を「カロリーを消費する手段」という観点だけで見てしまうと、もったいないというわけです。
古賀が考える運動の価値は、体の状態、回復力、ストレス耐性を変えるところにあります。ここから、有酸素運動と筋トレそれぞれの本当の役割の話に入っていきます。
有酸素運動は、脳を「変わりやすい状態」にする
有酸素運動といえば、脂肪燃焼のイメージがかなり強いはずです。しかし実際に体の中で起きているのは、睡眠、血流、心肺機能、そして脳といった部分への影響だと古賀は言います。
時侑也さんも「運動していた時期は、次の日に頭がすっきりしている感じがあった」と振り返ります。これには裏づけがあり、有酸素運動をするとBDNF(Brain-Derived Neurotrophic Factor)と呼ばれるものが増えることが知られています。古賀の言葉を借りれば「脳の肥料みたいなもの」です。
脳には、学習をしたり、新しい行動を定着させたりする働きがあります。その「変わりやすさ」に運動が関係している可能性がある、というのがこの話のポイントです。つまり有酸素運動は、単に脂肪を燃やすためのものではなく、体と脳を変化しやすい状態にする役割を持っている。時侑也さんが「それはめちゃくちゃ面白い」と反応したとおり、あまり語られない視点だと思います。
心臓も筋肉。有酸素と筋トレでは適応の方向が違う
もう一つ、有酸素運動によって起きる重要な適応が心臓です。心筋という言葉があるように、心臓は筋肉でできています。有酸素運動を続けると、心臓はより多くの血液を体に送り出せる方向へ適応していきます。専門的には伸張性肥大と呼ばれ、心臓の部屋(左心室)が大きく、しなやかになっていくイメージです。
有酸素運動では長時間にわたって全身に血液を送り続けるため、心臓に戻ってくる血液量が増えます。すると1回に送り出せる血液量も増えていきます。その結果、疲れにくくなる、回復しやすくなる、安静時の心拍数が下がる、といった変化が起こります。
一方、筋トレのような高強度の運動では、瞬間的に血圧がかなり上がります。そのため心臓は、強い圧力に耐える方向へ適応していきます。これは短縮性肥大と呼ばれ、心臓の壁が分厚くなるイメージです。同じ「心臓を鍛える」でも、刺激の方向がまったく違います。
だから筋トレだけを続けていると短縮性肥大ばかりが起き、送り出せる血液量のほうは伸びにくくなります。「筋トレだけしている人は鼻息が荒い」と言われることがありますが、そうした適応が背景にあります。有酸素運動は脂肪燃焼のためというより、体の循環システムそのものを鍛えている。時侑也さんの「家を建てるときの地盤みたいなもの」という表現に、古賀も同意していました。
「運動しなきゃ」と思っても、体が動ける状態にない人がいる
ReProでは、自律神経系の状態を見る測定を行っています。体験に来られた方やクライアントに実施してみると、体のエネルギー状態が低い人が結構多いそうです。ここで言うエネルギー状態とは、疲労が抜けにくい、回復しにくい、活力が低いといった状態を指します。
頭では「運動しなきゃ」と思っている。それでも、そもそも体が動ける状態ではないというケースが少なくありません。よく動ける人はつい「気持ちの問題でしょう」と言ってしまいますが、体は状態によってかなり左右されます。睡眠不足が続いたり、強いストレスにさらされ続けたりすると、活動量そのものが落ちやすくなります。
逆に、運動習慣のある人を見ていると「運動しているから疲れている」というより「運動しているから元気」という人が多いはずです。仕事をしたうえで夜に筋トレをして走っている人を見ると疲れそうに思えますが、習慣的にやっているからむしろ元気なのです。それは気合ではなく、心肺機能や回復力、ストレス耐性が適応して動ける体になっている部分が大きい、と古賀は説明します。
筋トレの役割は「代謝アップ」より「出力」
では筋トレはどんな役割を果たすのか。古賀の整理では、筋トレは出力を上げるトレーニングです。筋力、筋肉量、姿勢保持、体を支える力といった部分に効いてきます。
よく言われる「筋肉が増えると基礎代謝が上がる」は、半分正しい話です。筋肉は生きているだけでエネルギーを使う組織なので、筋肉量が増えれば基礎代謝は上がります。ただし、筋肉が1キロ増えたからといって消費カロリーが何百kcalも増えるわけではなく、安静時代謝の増加は数十kcal程度と言われています。「筋トレすれば代謝が爆上がり」というSNSの謳い文句は、少し誇張されているのが実際のところです。
とはいえ、筋トレに意味がないという話ではまったくありません。筋力がつけば動きやすくなり、疲れにくくなり、活動量が増えていきます。筋肉そのものが大量に燃やしているというより、動ける体になることで結果的に消費が増える、という順番です。また筋肉は体の中でもかなり大きな組織で、血糖のコントロールにも関わってきます。
筋力が低いと、そもそも階段がきつい。動くのが面倒になる。そうして日常の活動量そのものが落ちていきます。逆に筋力がある程度あれば日常が楽になり、活動量も増えやすくなります。筋トレは見た目を変えるためだけのものではなく、体を支えるエンジンそのものを作る感覚に近い、というのが古賀の考えです。
整える、回復する、動けるようになる、その上で鍛える
SNSには「とにかく追い込む」という情報があふれています。もちろん強度は大事ですが、ずっと疲れている人や回復できていない人がさらに追い込み続けると、逆に崩れてしまうケースもあります。だから古賀は、整える→回復する→動けるようになる→その上で鍛えるという順番を大切にしています。
最初からいきなり追い込む必要はありません。歩くだけでもいいし、日光を浴びる、睡眠時間を少し長めに確保する。そうしたところがかなり大事です。慢性的に疲れている人や運動する気力が湧かない人が、いきなりHIITのような高強度のインターバルトレーニングや毎日の筋トレを始めても、続かないことが多いのです。時侑也さんも「2年前にダンベルを買って1週間でやめました」と打ち明けていました。
朝に散歩をしてみる。通勤のときに階段を使ってみる。まずは、そうやって運動できる体を作っていく感覚が大事で、その土台として軽い有酸素運動がとても意味を持ちます。
実際の指導でも、古賀はまずヒアリングから入ります。運動と食事はもちろん変えていきますが、その人にとって何がボトルネックになっているのかを探ることが先です。上司からのストレスが強くて交感神経優位の状態が続き、体が戦闘モードのままで腸内環境も崩れている。その結果ダイエットがうまくいかない、というパターンの方もいます。職場のストレス源そのものを取り除くことはできませんが、運動指導者にできるのは、体力をつけ、ストレスがかかっても耐えられる体をつくるサポートです。
まとめ
有酸素運動は、心臓や回復力といった体の土台をつくる。その上で筋トレを行うことで、力の使い方や伝わり方が変わり、活動量が増えていく。これが第2回で語られた運動編の結論です。
短期間で無理やり体を変えようとするより、続けられる体をつくったほうが、結果的にうまくいくことが多い。とにかく走る、とにかく食べない、といった短期的なやり方は、その場では体重が落ちても永遠には続けられません。だからこそ、まずは少し歩く、しっかり寝る、という小さなところから始めてほしいと古賀は話します。
階段を上がってみる。今日20分だけ歩いてみる。最寄り駅の一つ手前で降りて家まで歩いてみる。その最初の一歩から、体もメンタルも少しずつ変わっていきます。次回はダイエットの後編・栄養編をお届けします。
この回の内容は、Podcast「RePro RADIO」第2回でお聴きいただけます。