「走れば痩せる」。ダイエットの入口として、これほど広く共有されている言葉もありません。食べすぎた翌日に走る、体重が増えたから走る。罪悪感を燃料にして走っている方も、少なくないと思います。
Podcast「RePro RADIO」第15回では、この通説を正面から扱いました。結論から言えば、有酸素運動が体重管理に有効な手段であることは間違いありません。ただ、それは有酸素運動が持つ価値のごく一部でしかない、というのが今回の話です。ちなみに収録は、二人とも学生時代の出来事で有酸素運動が嫌いになった、という思い出話から始まりました。学校の裏山を一山越えて戻ってくる8キロコースは、それだけで十分な「嫌な思い出」になるようです。
有酸素運動とは、走ることの名前ではない
まず定義から整理します。私たちが体を動かすには、ATPというエネルギーが必要です。筋肉はこのATPを使って収縮しています。ただ、ATPは筋肉のなかに大量に蓄えられているわけではないので、運動をしながら作り続ける必要があります。
では、どこから作るのか。糖質や脂質を材料にして、酸素を使いながらATPを作っていく。この仕組みを有酸素性エネルギー供給と呼びます。つまり有酸素運動とは、ウォーキングやサイクリングや水泳といった種目の名前ではなく、どのエネルギー供給系にどのくらい依存しているかという生理学的な話だ、というのが代表の古賀の説明です。走っているから有酸素運動、という定義ではないわけです。
「ラクな運動」という意味でもない
有酸素運動イコール低強度、と考えている方は多いのですが、必ずしもそうではありません。分かりやすいのがマラソン選手です。かなり高い強度で走っているのに、長時間その運動を維持できる。これは酸素を取り込み、運び、筋肉で利用するという能力が非常に高いからです。
だから有酸素性の能力とは、単純にゆっくり運動する能力ではなく、酸素を利用してエネルギーを生み出し続ける能力だと言えます。
もうひとつ誤解されやすいのが、有酸素運動中は酸素だけでエネルギーを作っている、という理解です。実際には、有酸素運動をしているからといって無酸素系を使っていないわけではなく、いろいろなエネルギー供給機構が常に重なり合いながら働いています。スイッチのように完全に切り替わるものではなく、運動が長時間になるほど酸化系、つまり有酸素性の供給への依存度が高くなっていく、という捉え方になります。
「脂肪を使うこと」と「体脂肪が減ること」は同じではない
ここからが本題です。古賀が最初に置いたのは、言葉の整理でした。脂肪を使うことと、体脂肪が減ることは同じではない、ということです。
運動中に脂肪酸がエネルギーとして使われるのは間違いありません。ただ、運動中に脂肪を多く使ったからといって、それが長期的な体脂肪の減少につながるとは限らない。その後の食事や活動量を含めて、体全体のエネルギーバランスが決まるからです。運動中に何を燃料として使ったかと、長期的に体脂肪が減るかどうかは、別の話になります。
いわゆる脂肪燃焼ゾーンについても同じです。一般的に、低強度から中強度では脂質の利用割合が高く、強度が上がるにつれて糖質への依存度が高くなります。ただし注意したいのは、脂肪を何パーセント使ったかだけでは、痩せるかどうかは判断できないという点です。低強度では脂質の割合が高くても、エネルギー消費量そのものは小さいことがあります。逆に少し強度を上げると、脂質の割合は下がってもエネルギー消費量は大きくなる。割合だけを追いかけるのは、少し本質から外れてしまう、という話でした。
「20分以上でないと脂肪は燃えない」の正体
ほとんどの方が一度は聞いたことがある、あの説です。これについて古賀ははっきりと、メディアや雑誌が取り上げるなかで生まれた誇張であり、正確ではないと話しています。
実際には、運動を開始した段階から糖質も脂質もエネルギー源として利用されています。20分経った瞬間に「ここからが脂肪燃焼です」というスイッチが入るわけではありません。エネルギーの利用割合は、運動強度や食事、トレーニング状態などによって変化していきます。
だから、10分でも20分でも、運動をすること自体に意味があります。20分に届かないから無駄、という考え方をする必要はありません。
運動しているのに痩せない、が起きる理由
では、運動しているのに体重が変わらない人がいるのはなぜか。ここで出てくるのが、番組の第2回でも取り上げたポンツァーの「総エネルギー消費の制約モデル」です。
簡単に言えば、身体活動を増やしたからといって、総エネルギー消費量が運動量に比例して無限に増え続けるわけではない、という考え方です。運動そのものではもちろんエネルギーを使います。ただ、運動したことで疲れて、それ以外の時間にあまり動かなくなる。立っている時間が減るなど、運動以外の日常的な身体活動が変化する可能性があります。
たとえば運動で500キロカロリー消費したつもりでも、そのあと動かなくなったり、食べる量が増えたりすれば、体重には反映されません。運動による消費カロリーが、そのまま体脂肪の減少になるわけではないということです。
食事と運動を「罰と報酬」にしない
この話は「今日は食べすぎたから走らなきゃ」という考え方にもつながります。古賀が繰り返し言い続けているのが、ここです。
もちろん食事と運動の両方を整えることは大切です。ただ、この二つを常に帳消しにする関係にしてしまうのは危険だ、と話しています。食べたから運動しなければならない。運動したから何を食べてもいい。これを繰り返すと、食事と運動が罰と報酬の関係になってしまいます。
そもそも食事は、体を動かすためのエネルギーだけのものではありません。
- 筋肉を修復する材料になる
- ホルモンを作る材料になる
- 免疫機能を維持する材料になる
一方で運動は、食べたものを帳消しにする罰ではなく、体に適応を起こすための仕組みです。一対一の交換関係で考えるよりも、食べることと動くことを長期的な目線で見て、健康を作る一つのシステムとして考えるほうがいい、というのが古賀の考え方です。
そこで出てくるのが、番組でもたびたび登場するハイエナジーフラックスという言葉。しっかり食べて、しっかり動く、ということです。逆に多いのが、運動はしないのに痩せたいからカロリーを極端に削る、というパターン。エネルギーの出入りそのものを大きくしていくことが、強い体になるために大事だと話していました。
有酸素運動の価値①心臓と自律神経
ここからが、古賀がいちばん伝えたいところです。有酸素運動の価値を痩せることだけで評価するのは、すごくもったいない。エネルギーを使う能力だけでなく、体そのものの耐久性を高める運動だからです。今回は心臓、自律神経、レジリエンスの3つに絞って話が進みました。
まず心臓。心臓も心筋という筋肉でできています。有酸素運動では長時間にわたって心臓が血液を送り出し続ける必要があるため、心臓には負荷がかかります。筋肉が酸素を必要とすると心拍数が上がり、送り出される血液量が増える。こうした刺激を繰り返すことで、心臓はより効率よく血液を送り出せるように適応していきます。
代表的なのが1回拍出量、つまり1回の拍動でどれだけの血液を送り出せるかという指標です。有酸素トレーニングを継続すると、心室がより効率的に広がるようになり、1回で送り出せる量が増えていきます。心臓の力が強くなれば、何もしていない安静時も、少ない心拍数のままで維持できるようになる、という話でした。
そして心臓は自律神経とも深く関係しています。心拍は自分の意思で直接コントロールしているものではなく、緊張すれば勝手に上がるように、その時々の状況に合わせて調整されています。運動中は交感神経の働きが高まって心拍数や1回拍出量が増え、運動が終われば副交感神経の影響で徐々に戻っていく。重要なのは、この上げる能力と戻す能力の両方です。
ここで登場するのがHRV、心拍変動です。心臓は毎回まったく同じ間隔で機械のように動いているわけではなく、その微妙な揺らぎに自律神経による調整が反映されていると言われています。ReProでも自律神経の測定を行っており、見ているのはこの心拍変動です。有酸素運動で心拍機能そのものを高め、自律神経の調整能力を支えていくことは、体のストレス応答や回復を考えるうえでも重要になります。自律神経が乱れているなと感じている方に対して、有酸素運動はある程度一定の効果がありますよ、というのが古賀の見立てで、スタジオでもおすすめしている内容です。
有酸素運動の価値②レジリエンス
3つ目がレジリエンス、ストレスを受けてもそこから回復していく能力です。古賀がとくに重視している考え方で、これは運動だけの話ではなく、人生そのものに関わってくるものだと話しています。
運動をすると心拍数が上がり、呼吸が速くなり、筋肉にもストレスがかかります。運動そのものが、体にとって一種の生理的なストレスになっているわけです。そして適切な量のストレスを繰り返し経験すると、体は次はもっとうまく対応しようと適応していきます。ストレスをゼロにするのではなく、ストレスに対応できる体を作っていく、という発想です。
この背景にあるのがホルミシスという考え方。ストレスは大きすぎれば害になりますが、適度なストレスは体の適応反応を引き起こします。もちろん、ストレスを浴びろという意味ではありません。上司の罵声にひたすら耐えろという話ではなく、運動をする、新しいことにチャレンジする、いつもと違う刺激を入れる。そうした方向のストレスです。
古賀自身、ここ2〜3ヶ月のあいだに、仕事でこれまで経験したことがないほどの強いストレスを受ける出来事があったと明かしています。それでも筋トレも有酸素運動も続けていたぶん、人よりレジリエンスは高かった。回復力があって再起できたことが、かなり大きな鍵だったと振り返っていました。
体重計には出てこない、体の余力
今回の話をまとめると、走って痩せるというのは有酸素運動のほんの一部分でしかありません。有酸素運動の価値は、体重を落とすことよりも、むしろ体の余力を増やすことにあります。
- 階段を登っても息切れしにくい
- 心臓が効率よく血液を送り出せる
- 運動をしたあと、体が早く落ち着く
- ストレスを受けても、そこから回復できる
どれも体重計に乗って数字として直接出てくるものではありません。それでも、長い人生を考えたときには、ものすごく大きな価値があります。シンプルに日常のコンディションが上がり、動こうと思ったら動ける体になる。番組では、野球選手がなぜあんなに走るのかという話にも触れていました。指導者がその効果を狙っているとは限らないとしても、普段の耐久力を上げ、日常のコンディションを保つうえで、有酸素運動にはちゃんと価値がある、ということです。
まとめ
有酸素運動がエネルギー消費を増やすという意味で、体重管理に有効な手段であることは間違いありません。ただ、それは副次的な効果と言ってもいい。有酸素運動は、心臓を適応させ、自律神経を調節し、体のレジリエンスを高めていく運動です。
そして、食べたから運動する、運動したから食べてもいいという、食事と運動を罰と報酬の関係にしないこと。食べることは体を作ること、動くことは体を適応させること。その両方を長期的に積み重ねていく。これがハイエナジーフラックスな生活です。
見た目を変えることも、もちろん大切です。でも、その先にあるのは、より長く、より自由に自分の体を使えること。そのために筋力も筋肉量も、そして心肺機能も必要になります。有酸素運動は単に痩せるための運動ではなく、生きるための体を作る運動と考えてもいいのではないでしょうか。これが今回の提言でした。
この回の内容は、Podcast「RePro RADIO」第15回でお聴きいただけます。