整体、マッサージ、ストレッチ、筋トレ、ピラティス、有酸素運動。身体のためにできることは、この数年でずいぶん増えました。ただ、手段が増えたぶんだけ「結局、自分は何を選べばいいのか」は分かりにくくなっています。RePro代表・古賀武揚のもとにも、この種の質問が絶えず届きます。
Podcast「RePro RADIO」第16回のテーマは「自分の身体を変える運動の選び方」。ここで話しているのは、「これをやれば正解です」という答えではありません。そもそも身体へのアプローチを選ぶとき、どういう基準で選べばいいのか。その基準についての回です。
選ぶときの基準は「受動か、能動か」
スタジオでよく聞かれるのは、たとえばこんな質問です。
- 身体が硬いのですが、ストレッチをした方がいいですか
- 腰が痛いのですが、整体と筋トレ、どちらがいいですか
- 整体、マッサージ、筋トレ、ピラティス……選択肢が多すぎて、自分にはどれが合うのか分かりません
代表の古賀は、こうした質問はもっともだと言います。手段が増えたこと自体はいいことですが、増えるほどに、自分へ必要なものは見分けにくくなる。そのうえ私たちは、できれば楽な方を選びたくなる生きものでもあります。それも自然なことです。
ただ、この回で古賀が伝えたかったのは、ひとつひとつの質問に「それならこれです」と答えることではありませんでした。むしろ逆で、自分で選べるようになるための基準を持ってほしい。そしてまず持ってほしい基準として挙げたのが、受動と能動という分け方です。
受動とは、自分以外の何かによって身体に刺激を与えてもらうこと。整体やマッサージ、そして誰かにしてもらうストレッチもここに入ります。基本的に「受ける側」に立っているアプローチです。
能動とは、自分が身体を動かして、自分に刺激を与えること。筋トレ、ウォーキング、ピラティス、スポーツなどがこれにあたります。
どちらが優れているという話ではありません。ただ、身体に起きていることの性質がまったく違う。だからこそ、いま自分がやろうとしているのは受動なのか能動なのか。それを意識するだけで、選択の解像度はかなり上がります。
受動を否定したいのではない。そこで終わらないでほしい
「では、整体やマッサージはやらない方がいいということですか」。収録でも、この質問が出ました。古賀の答えは、はっきりと「それは全然違います」でした。
マッサージにはリラクゼーションとしての価値がありますし、ストレッチによって一時的に可動域が変化することもあります。痛みや不快感に対して、適切なケアが役立つ場面もある。受動イコール悪ではない、というのが前提です。
ただし、と古賀は続けます。そこで終わらないでほしい、と。
マッサージを受けて身体が軽くなった。これはとてもいいことです。であれば、その状態で自分で歩いてみる。ストレッチをして足が上がるようになった。それなら今度は、その可動域を自分の筋肉でコントロールできるようにしていく。受動で得た変化を、能動的な運動につなげていく。そこまでやりきることが大切だ、という考え方です。
収録では、こんな例えも出ました。サッカーでシュートの蹴り方を教えてもらうことはできる。けれど、それを習得するのは自分自身だ、と。
他動で90度、自分では60度。「動きやすい」と「動ける」は違う
この違いが分かりやすく表れるのが、仰向けで片脚を持ち上げてもらう動作(SLR)です。
誰かに持ち上げてもらうと、脚は90度まで上がる。ところが自分の力では60度までしか上がらない。このとき起きているのは「柔らかくない」ということではなく、その可動域を自分でコントロールできていないという状態です。自分で扱える範囲のことを、機能的可動域と呼びます。
他動で動く範囲と、自分でコントロールできる範囲は違う。だから身体づくりで見るべきなのは、どこまで動かされるかではなく、自分の意思でどこまで動かせるかだ、というのが古賀の視点です。
ここから、この回のキーワードのひとつが出てきます。「動きやすい」と「動ける」は違う。マッサージを受けて身体が軽くなるのは素晴らしいことです。ストレッチをして動かしやすくなるのも素晴らしい。そのうえで、「その先に、自分でその身体を使えるのか」という問いが残ります。
能動的な運動は、脳と身体のコミュニケーション
古賀がこの回でいちばん伝えたかったのが、能動的な運動には「脳を使う」という大きな価値がある、という点でした。
脚を持ち上げてもらっているとき、自分は基本的に動かされる側です。ところが自分で脚を動かそうとすると、どこまで動かすのか、どれくらい力を出すのか、いま自分の身体はどの位置にあるのか。そうした情報を、脳がずっと処理しながら動くことになります。視覚、前庭覚、そして筋肉や腱、関節から入ってくる体性感覚。いろいろな情報を脳が統合して、いまの自分の身体がどうなっているのかを把握しています。
つまり能動的な運動では、動く、感じる、判断する、また動く、というサイクルが起きている。運動は単に筋肉を鍛えることではなく、自分のなかの脳と身体のコミュニケーションなのだ、というのが古賀の一貫した主張です。
初めてスクワットをする人の動きは、たいていぎこちないものです。それが何度も練習するうちに滑らかになっていく。もちろん筋力が向上している面もありますが、それだけではありません。「どう動けばいいか」という運動制御そのものを学習しているのです。誰でも最初は自転車に乗れないのに、補助輪から始めていつの間にか乗れるようになる。あの学習と同じことが起きています。運動を続けることで、身体の使い方そのものが上手になっていく。これが受動的なアプローチとの、いちばん大きな違いです。
「結局、何をやればいい?」への答え方
それでも「私は何をやればいいのか」と聞かれたら、古賀はこう答えます。まず、自分が何を変えたいのかを明確にすること。筋力なのか、心肺機能なのか、身体のコントロール能力なのか、あるいは健康そのものなのか。
目的が決まれば、選ぶ運動も見えてきます。
- 筋力を高めたいなら、筋トレ
- 心肺機能を高めたいなら、有酸素運動(前回お話ししたとおり、やらない方がいい人はほぼ存在しません)
- 身体のコントロール能力を高めたいなら、ピラティスやバランストレーニング
- スポーツを楽しみたいなら、スポーツ
もちろん、筋トレさえやればいいという単純な話ではありません。理想を言えば全部やること。RePro のセッションでも、これらは併用しています。大切なのは、その運動が自分に何を与えてくれるのかを考えながら選んでいくこと。そしてそのなかで「自分自身が身体を動かしているか」を基準にすることです。
そして、順番があります。目的に合った能動的な運動を、生活の中心に置く。そのうえで必要であれば、ストレッチや整体といった受動的なアプローチを組み込む。この順番がとても大切だと古賀は言います。
時間とお金を、どちらに使うか
この話は、時間とお金の使い方にも直結します。
受動で得られる変化は、多くの場合一時的なものです。だからこそ能動の側に時間とお金をかけてほしい、というのが古賀の考えです。よく考えれば当たり前のことで、自分の身体を動かせるのは自分しかいませんし、最終的にその身体を使って生活していくのも自分だからです。
古賀はこれを「身体の所有権」という言葉で表現していました。身体の所有権を、他者ではなく自分自身に戻していく。自分の身体を理解して、自分で調整できるところまでいくと、身体との付き合い方は大きく変わります。
一方で、自分の身体は自分で分かっているようで、分からないことも多いものです。なぜこんなに固まってしまうのか、どこが原因で防御反応が出ているのか、なぜこの筋肉が弱いのか。こうしたことは、やはり専門家に見てもらわないと分かりません。だからこそ古賀は、質の高いパーソナルジムやピラティススタジオのように、一人ひとりに向き合ってくれる空間をすすめています。
RePro が「鍛える前に整える」と言い続ける理由
RePro には「鍛える前に整える」という考え方があります。実際のセッションでも、まず整えることを大切にしています。
ただし、整えることはゴールではありません。ほぐしたりストレッチをしたりする時間は、古賀の場合5分ほど。そこからが本番です。
- 整えてもらう
- 自分で動いてみる
- 身体から返ってくる感覚を受け取る
- その情報をもとに動きを修正する
- 修正した動きで、また動いてみる
この循環をつくっていく。整える、動く、鍛えるのサイクルです。目指すのは、整えてもらわないと動けない身体ではなく、自分で動ける身体。RePro がクライアントに常日頃から伝えているのは、この一点です。
まとめ
受動が悪いわけではありません。受動には受動の価値がある。ただ、長期的に自分の身体を変えていきたいのであれば、能動的に身体を動かすことをもっと大切にしてほしい。これが第16回の結論です。
私たちが持っている時間は限られています。その時間を、誰かに身体を変えてもらうためではなく、自分で身体を変えていくために使う。最後に身体を動かすのは、いつでも自分自身だからです。
「結局、何をやればいいですか」という問いに対して古賀が返したかったのは、「これをやってください」という指示ではなく、自分で選択できる基準を持ってもらうこと。その大きなひとつが、受動か能動かという視点でした。
この回の内容は、Podcast「RePro RADIO」第16回でお聴きいただけます。