「猫背が気になるので、普段から姿勢を良くしようと意識しています。でも、気づくとまた元の姿勢に戻ってしまいます」。Podcast「RePro RADIO」第6回は、RePro代表の古賀武揚のもとに届いた、こんなご質問から始まりました。姿勢を正しましょう、背筋を伸ばしましょう——よく聞く言葉ですが、そもそも姿勢は意識だけで改善できるものなのでしょうか。
結論から言うと、代表の古賀の答えは「姿勢は意識で維持するものではなく、体の状態が作り出した結果」というものでした。多くの人が考えている順番が、実は逆だというのです。今回は、なぜ意識では姿勢が続かないのか、そして何を変えれば姿勢が変わるのかを、脳と体の仕組みから見ていきます。
「意識が足りないから戻る」わけではない
多くの方は、猫背だから背筋を伸ばそう、いい姿勢を意識しよう、と考えます。ただ、姿勢というのは体が今置かれている状態を反映したアウトプットです。
たとえば、徹夜した次の日に「胸を張っていい姿勢を維持してください」と言われても、なかなか大変です。自然と丸まってしまう。これは意識が弱いからではありません。疲労している、眠い、エネルギーが少ない——そうした体の状態を脳が察知して、より省エネな姿勢を選択しているのです。
ほかにも、呼吸が浅い、長時間座っている、ストレスが強い、といったことも姿勢に影響します。つまり猫背そのものが問題というより、猫背にならざるを得ない体の状態が背景にあることが多い。姿勢は原因ではなく結果です。結果だけを変えようとしても、根本が変わらなければ元に戻ってしまいます。
脳が姿勢を決めるときに見ている3つの情報
では、その姿勢を決めているのは何なのか。脳は常に、自分が今どこにいるのか、体がどちらに傾いているのかという情報を集めながら、無意識のうちに姿勢を決めています。
そのとき脳が主に参考にしている情報源が、3つあります。
- 視覚:目から入ってくる情報
- 平衡感覚:耳の奥にある前庭器官が、頭の傾きや加速度を感じ取っている
- 身体感覚:筋肉や関節から送られてくる情報
脳はこれらを統合して、今の姿勢が安全かどうかを判断しています。どれが一番重要かは状況によりますが、一般的には視覚への依存度が非常に高く、だいたい70%と言われているそうです。
スマホで頭が前に出るのは、首の筋力のせいではない
視覚への依存度が高いということは、見ている世界によって姿勢が変わるということでもあります。スマホを見ているとき、自然と頭が前に出ますよね。あれは首の筋力が弱いからではなく、視線の位置に合わせて脳が体を適応させている、という見方です。
もっと分かりやすいのは、目を閉じて片足立ちをしてみることです。急にグラグラする。これは、脳が姿勢の制御にそれだけ視覚情報を使っている証拠だと古賀は説明します。
PMRFという、24時間働いている司令塔
ここからは少し専門的な話になります。覚える必要はありませんが、仕組みを知っておくと納得しやすくなります。
目から入った情報は網膜で処理され、視神経を通って脳へ送られます。視覚情報にはここから大きく2つのルートがあります。ひとつは「何を見ているか」を認識するルートで、後頭葉の視覚野に送られ、人や物を認識します。もうひとつが、今回のテーマで重要な「自分が今どこにいるのか」「どう動いているのか」を判断するルート。こちらの情報は上丘や前庭核といった場所に送られ、脳は体が今どこにあるのか、倒れそうではないかを常に計算しています。
そして、その情報が送られる先がPMRF(橋延髄網様体)と呼ばれる場所です。簡単に言えば、姿勢や筋肉の緊張を自動的に調整している司令塔にあたります。私たちは今この瞬間、背中を何%使っているかなんて考えていません。それでも倒れずに座っていられるし、立てるし、歩ける。PMRFを含むシステムが、無意識に姿勢をコントロールしているからです。
PMRFからは網様体脊髄路という神経を通って脊髄へ指令が送られ、脊柱起立筋や大臀筋といった、重力に抗う筋肉の働きが調整されます。視覚から情報が入り、上丘や前庭核へ、そこからPMRFへ、網様体脊髄路を通って筋肉へ。その結果として姿勢ができあがる、という流れです。数秒間「背筋を伸ばそう」と意識するよりも、24時間働いているこの無意識の自動制御システムのほうが圧倒的に強い。これが、姿勢は意識では維持できない大きな理由のひとつだと古賀は言います。
では、実際に何をすればいいのか
大前提として、姿勢改善のために「いい姿勢を頑張って維持する」必要はない、というのが古賀の考えです。むしろ大事なのは、日常でたくさん動くこと。人間の体は本来動くために作られていて、長時間同じ姿勢でいることのほうが特殊なのです。
1時間座ったら立つ。少し歩く。階段を使う。それだけでも十分に意味があります。以前の運動編でもお話ししたとおり、運動の本質はカロリー消費ではなく、体に「動いていいよ」という情報を与えること。歩く、しゃがむ、腕を上げる——こうした多様な動きを経験することで、脳は体の情報をどんどん更新していきます。
そしてもうひとつ、古賀が重要だと考えているのが呼吸です。呼吸は1日に約2万回行われています。呼吸の質が悪ければ、その影響を何千回、何万回と受け続けることになる。だからReProでは、呼吸や視線、身体感覚がきちんと使えているかどうかを見ることが多いのです。
なお、マッサージや骨盤矯正を否定しているわけではありません。ただ、姿勢に大きく影響しているのは24時間働いている無意識の制御システムのほうなので、その場しのぎでは根本解決にはなりにくい。リラックスを目的にするのであれば、それはそれで良いという整理です。
姿勢を作っている要素は、人によって違う
もうひとつ伝えたいのは、姿勢を作っている要素は人によって全く違うということです。Aさんは呼吸かもしれない。Bさんは視覚かもしれない。Cさんはそもそも股関節の機能かもしれない。Dさんは長時間のデスクワークかもしれませんし、メガネが関係していることもあります。
だから、SNSでよく見かける「姿勢改善はこれ一つ」といったものは、正直なところ難しい。原因が人それぞれである以上、本当に姿勢を変えたいのであれば、まずは自分の体で何が起きているのかを知ることが出発点になります。
ReProでも、姿勢だけを見るのではなく、呼吸や体の使い方、感覚入力まで含めて確認しています。気になる方は、一度ご相談いただければと思います。
まとめ
姿勢は意識で維持するものではなく、体の今の状態を反映したアウトプットです。そしてそのアウトプットは、筋力だけでなく、視覚・平衡感覚・身体感覚・呼吸・ストレス・日常の生活習慣といった、さまざまな要素によって作られています。
だから姿勢を変えたいなら、背筋を伸ばすことを頑張るのではなく、体そのものをより良い状態に整えていく。その結果として姿勢が変わる。そう考えるほうが本質に近い、というのが今回の結論でした。こうした情報を知っておくことも大切ですが、結局は自分が動かないと変わっていきません。一緒に、少しずつ変えていきましょう。
この回の内容は、Podcast「RePro RADIO」第6回でお聴きいただけます。