「お尻を鍛えているのに、思ったように変わらない」。RePro RADIO第5回では、相談として寄せられることの多い「お尻」をテーマに取り上げました。代表の古賀武揚が、ヒップアップを見た目の話としてではなく、機能解剖や運動学の視点を交えながら整理していきます。
お尻は見た目の話に見えて、実は姿勢制御や運動連鎖にまで関わる奥深い部位です。感覚論だけで語られやすい領域だからこそ、どの筋肉がどんな役割を持ち、何が起きていると変わらないのかを、順番に見ていきましょう。
お尻は「一つの筋肉」ではない — 大臀筋と中臀筋の役割
前提として、お尻は一つの筋肉ではありません。大臀筋・中臀筋・小臀筋に分かれています。
なかでも大臀筋は、人の体の中でも最大級の筋肉です。骨盤の後面から大腿骨、さらに腸脛靭帯にまで付着しています。役割は股関節伸展、つまり足を後ろに引く動作の主導筋。歩行や立ち上がり動作、スプリントまで広く関与します。難しく聞こえるかもしれませんが、要するに歩く・走る・立ち上がるという動作すべてに関係している筋肉、ということです。
中臀筋は片足支持——片足で立っているときの骨盤の安定性に、かなり重要な筋肉です。ここが機能しないと、歩行効率や荷重コントロールも崩れやすくなります。
つまりお尻は、単に「盛る」ための筋肉ではなく、運動制御の中核を担っている部位でもあります。ヒップラインには筋肉量だけでなく、体の使い方が出るのです。
プリッと上がったお尻が、必ずしも機能的とは限らない
ここは押さえておきたい点ですが、プリッとしているお尻が機能的に良いとは限りません。骨盤が前傾しすぎ、腰椎が過度に反った結果として、見かけ上ヒップアップしている状態もあるからです。体幹のスタッキングが崩れているケースもあります。
この場合、お尻が上がっているというより、骨盤ごと前に倒れているだけ。反り腰は、それが一番わかりやすく表れた姿勢だといえます。
古賀自身も、昔から「プリケツ」と言われていたタイプでした。今になって考えると、骨盤前傾がかなり強く、股関節が前方に変位していただけ。学生時代に「歩き方変だよね、せっかちペンギンやん」と言われ、しばらく廊下の歩き方を気にしていたというエピソードも紹介しています。
本質的に見るべきは、どこに荷重しているか、そもそも股関節で運動戦略を組めているかどうか。写真を撮るときに骨盤を前傾させると映えるのは事実ですが、それと体の使い方の良し悪しは別の話です。
片足立ちで足を後ろに引く — 腰が反ったら代償動作
鍛えているのに変わらない理由の一つが、代償動作です。本来はお尻の筋肉(臀筋)を使いたいのに、腰や前ももが頑張ってしまう状態を指します。「スクワットで前ももばかりパンパンになる」「足が太くなるのでは」という声も、ここに近い話です。
その場でできるチェックがあります。
- 立った状態から片足立ちになる
- もう一方の足を、後ろへぐっと遠くに引く(後ろに蹴り上げるようなイメージ)
- このとき腰が反ってしまうなら、それが代償動作
本来は股関節伸展で行いたい動作なのに、臀筋の出力やタイミングがうまく噛み合わないと、代わりに腰を反る動き——腰椎の伸展で成立させてしまう。お尻を鍛えているつもりで、実際は腰ばかり使っている人は非常に多いといいます。
だから、重量だけを上げても、運動パターンが崩れたままでは効率が悪い。まずはお腹の筋肉を入れる、腰を使わない、前ももを使わないような状態にセットアップし、その感覚をつかんでからお尻のトレーニングに進む。この流れがおすすめです。
王道種目が合理的な理由 — ローバー・ブルガリアン・ハックスクワット
代償が出ないようにセットアップできたうえで、では何をやるか。お尻は股関節伸展が主動なので、それを使いやすいという観点で考えると、王道種目はやはりかなり合理的です。
- ローバースクワット
- ブルガリアンスクワット
- ハックスクワット
「ローバー」とは、バーを担ぐ位置が低いという意味です。低めに担ぐと上体が前に倒れやすくなり(前傾)、その分、股関節にどれだけ張力がかかっているかを示すモーメントが増えるため、お尻に負荷を乗せやすくなります。上半身が少し前のめりになることで、前ももではなくお尻に入りやすくなる、というイメージです。
ブルガリアンスクワットは片足支持の種目なので、骨盤を安定させながら股関節伸展を作る必要があります。そのため中臀筋の関与も大きくなります。一方で、フォームや力の加わる場所が少し違うだけで狙いと別のところに入ってしまう繊細さがあり、バランス能力も問われる種目です。
ハックスクワットはマシンで行うスクワットで、一般的には前もものイメージが強い種目です。ただ、足の位置や重心戦略を変えることでお尻への張力もかなり変わるため、安定した状態でお尻を鍛えられるというメリットがあります。
「重さ」より先に、どこで運動を駆動しているか
結局のところ、大事なのは種目名よりも使い方です。同じ種目でも、腰で逃げてしまう人もいれば、股関節できちんと荷重を受けられる人もいる。だからこそ、重量よりも先に、どこで運動を駆動しているかを感じることが重要になります。
SNSではどうしても扱う重さに目が行きがちですが、見るべきはその重さをどこで受け止めているか、どの筋肉で張力を受けているかです。
そのうえで、筋肥大——筋肉を大きくしたいのであれば、対象としている筋肉に十分な張力を与えられるかが鍵になります。この点について古賀は「ちゃんとジムに行ったほうが圧倒的に早い」と話します。宅トレがダメというわけではありません。ただ、人にとって一番大事なものは時間です。効率よく負荷をかけられる環境を選んだほうが、結果的に時間の短縮になり、他のことにその時間を使えます。
「重さを扱うと体つきがゴリゴリになるのでは」と心配される方も多いところですが、ポイントはその重さをどこに効かせるか。軽い刺激をずっと続けるより、対象の筋に十分なテンションを与えるほうが、結果的に最短で変わりやすいといえます。
同じ「ヒップアップしたい」でも、原因は人によって違う
ここまで見てきたとおり、「お尻が変わらない」の原因は一つではありません。
- 骨盤前傾が強い
- そもそも股関節の動かし方が崩れている
- 前もも優位になっている
- 腰で代償している
原因が違えば、打つ手も変わります。だから、SNSで見たメニューをそのままやるだけでは遠回りになってしまうことがあるのです。
ReProでは、メニューを渡して終わりではなく、一人ひとりの体の特性や運動パターン、代償動作まで評価しながら、最短で変わるためのプログラムをオーダーメイドで設計しています。
情報が多い時代だからこそ、知識のあるプロに一度見てもらう価値は大きい、と古賀は話します。そのうえでプロを見極める観点として挙げるのが、なぜその種目を選択するのかを説明できるか、体全体を統合的に見られているかという2点です。ただ追い込むだけでなく、あなたの体はこうだからこうしたほうがいい、と理解してくれる相手かどうかが判断材料になります。
まとめ
お尻は大臀筋・中臀筋・小臀筋に分かれ、大臀筋は股関節伸展の主導筋、中臀筋は片足支持での骨盤の安定に関わります。見た目のヒップアップと機能的な良さは必ずしも一致せず、骨盤前傾によって見かけ上お尻が上がっているケースもあります。
鍛えても変わらない背景には、腰や前ももが代わりに働く代償動作があります。まずはセットアップで代償を出さない状態をつくり、ローバースクワットやブルガリアンスクワット、ハックスクワットなど股関節主導をつくりやすい種目で、対象の筋に十分な張力を与えていく。重量よりも先に、どこで駆動しているかを確かめることが近道です。
体は全員違います。だからこそ、自分に合った戦略を見つけることが、最短で変わる方法だといえます。
この回の内容は、Podcast「RePro RADIO」第5回でお聴きいただけます。