練習場では気持ちよく打てていたのに、コースに出た途端に当たらなくなる。レッスンで言われたことを意識したら、かえってスイングが崩れてしまった。ゴルフをやったことのある方なら、一度は覚えのある感覚ではないでしょうか。
Podcast「RePro RADIO」第7回は、代表の古賀の中学からの友人であり、横浜市内でゴルフレッスンを展開するプロゴルファー・前山海人さんをゲストに迎えた対談回です。テーマは「上手い人ほど考えていない」。ゴルフを入り口にしながら、運動学習と脳科学の視点から「うまくいかなくなるとき、体と脳に何が起きているのか」を掘り下げました。
調子を崩したときほど、人は「体」を考え始める
古賀がまず前山さんに聞いたのは、「子どもの頃から続けてきたプロでも、ラウンド中にスイングがおかしくなることはあるのか」でした。返ってきた答えは「めちゃくちゃあります」。特に終盤になると、崩れているのが自分でも分かるといいます。今でも、です。
そして調子を崩したとき、人には共通した反応があります。体のことを考え始めるのです。「今のは肩かな」「手首かな」「体が開いたかな」。レッスンの現場でも、うまくいかなくなったお客さまの頭に最初に浮かぶのは、たいていそこだと前山さんも言います。
インターナルフォーカスとエクスターナルフォーカス
ここで鍵になる言葉が2つ出てきます。
- インターナルフォーカス(内的焦点)…肘の角度、手首の向きなど、自分の体の内側に意識を向けること
- エクスターナルフォーカス(外的焦点)…ターゲット、クラブヘッド、ボールの軌道など、体の外側に意識を向けること
古賀が「アプローチのとき、体を考えていますか、それとも落とし所や球筋を考えていますか」と尋ねると、前山さんの答えは即座に「落とし所と、あとは球の高さ」でした。
これを裏づける研究があります。上級ゴルファーを対象にアプローチを打ってもらい、一方の群にはスイングフォームを強く意識させ、もう一方の群にはターゲットを意識させたところ、成績が良かったのはターゲットを意識した群でした。上達すればするほど、体そのものより目的に意識を向けることが重要になる。これが今回の回の中心にある話です。
脳の中では「自動運転」が「手動運転」に切り替わっている
古賀はこれを脳の働きから説明します。初心者のうちは「どう動こうか」「どうフォームを作ろうか」と考えます。このとき働いているのは前頭前野や運動野。これはこれで、とても大事な段階です。
ところが何万回も反復した動作は、熟練するにつれて小脳や大脳基底核を中心とした働きへ移り、自動化されていきます。自転車が分かりやすい例です。最初は誰も乗れませんが、一度乗れてしまえば「右足をこのくらい踏み込んで、次に左足を」などとは考えません。そして、動きが自動化されているほど良いパフォーマンスが出る。これが大前提です。
では、なぜ本番でインターナルフォーカスに戻ってしまうのか。練習場では気楽に打てても、本番では「ミスをしたくない」という気持ちが働き、頭の中であれこれ考え始めるからです。本来は自動運転が確立されている動きを、わざわざ手動運転に切り替えてしまう。その結果としてミスが出る。意識で動きを操作し直してしまうこの現象を、運動学習ではリーインベストメントと呼びます。「考えると下手になる」の正体は、単なるメンタルの問題とは少し違う、というわけです。
それでも内的焦点は必要──ただし「修正」のために
誤解してほしくないのは、インターナルフォーカスが悪いわけではない、という点です。動きがまだ自動化されていない初心者には、フォーム修正や技術習得そのものが必要になります。実際に前山さんも、初めての方には握り方、立ち方、クラブの上げ方・下ろし方をメカニズムとして順に伝えています。
一方、スイングが固まってきた上級者への指導は変わります。前山さんが挙げたのは、アウトサイドイン軌道でスライスが出る方へのドリル。ピッチングや9番、ウェッジあたりのクラブで3センチほどティーアップし、「球を高く打ってみてください」と伝える。するとクラブは勝手に後ろから、あるいは下から入ってくるといいます。
「下から入れてください」と言ってしまえば早いのですが、それは意識が体寄りになります。古賀いわく、外的焦点にも体からの距離に差があり、より遠くを意識させたほうが動きの自動化はスムーズ。弾道をイメージさせるほうが、クラブの入射角を指示するより体から遠いぶん効きやすい、というわけです。
前山さんには以前から「目的から動くことで力が発揮できる」という持論がありました。どんな球を打ちたいか、どう入れたいかという目的から、体は勝手に動く。理論として学んだのではなく、自身の競技経験と指導経験の積み重ねからたどり着いた感覚だといいます。古賀はそれを「エクスターナルフォーカスを言語化したもの」と受け止めていました。優れた指導者ほど、骨盤の向きを少し直したあとで「ではターゲットに打ってください」と、最後は意識を外へ戻します。立ち幅跳びで「腕をこのくらい振って」と言うより「遠くの山に届くイメージで跳んで」と言ったほうが遠くに跳べるのも、同じ理屈です。
ラウンド中に崩れたら──「インターナルフォーカス地獄」を避ける
では、実際にラウンド中におかしくなったらどうするか。古賀が最もやってはいけないと言うのが、その場でスイング修正を始めることです。「今の手首が」「開いたな」「次はこう変えよう」と考え始めると、どんどん崩れていく。古賀はこれを「インターナルフォーカス地獄」と呼んでいます。
大前提として、ラウンドは学習の時間ではなく、学習してきたことを発揮する時間。修正は練習場でやる、コースでは発揮する。ゴルフが上手い人ほど、この切り分けができています。もし崩れたら、体ではなく結果に立ち戻ります。
- アプローチなら、どこに落とすか
- ドライバーなら、どこに打ち出すか
- パターなら、どのラインを通すか
前山さんが外的焦点寄りになれたきっかけも印象的でした。球を大きく曲げるようにしたのだそうです。どこに打ち出し、最終的な着弾地点が狙ったところであればOK。アマチュアの方はボウリングのレーンのように「まっすぐ、この幅の中を飛ばなければいけない、ガターに落ちたら終わり」と考えがちですが、ガターの外側から最後に真ん中のピンを狙うくらいのイメージを持つことで、スイングそのものにこだわらなくなった。曲がることは悪いことだ、という前提を手放したわけです。
古賀からの提案は、シンプルな球(意識すること)を一つだけ持つこと。「フィニッシュまで振る」「あそこまで運ぶ」といった単純なものです。加えて効果的なのが、素振りの前に球筋をイメージすること。多くの方は素振りのときにスイングそのものをイメージしていますが、そこを球筋に変えるだけで、本番に近い形で外的焦点の練習ができます。なお、ダフリやトップは振り遅れから生まれることが多く、前山さんは水平に構えた野球のような素振りで「この辺でクラブがターンする」「この辺で音が鳴る」という感覚をつかんでもらい、少しずつ地面に下ろしていくドリルを使っているそうです。これは体に近い側の外的焦点にあたります。
ルーティンとクワイエットアイ──上手い人ほど、考える時間が短い
古賀がもう一つ紹介したのがクワイエットアイ。上手い人ほど、目的物を見ている時間が長いという特徴です。ボールや対象物の一点に目線を預けていられる。逆にあまり得意でない方は早くヘッドアップしてしまい、目線があちこちに動きます。
ここで前山さんから質問が出ました。パッティングの研究で、PGAツアーの上位ランカーほどアドレスから打ち終わるまでの時間が短く、素振りからストロークまで平均5秒以内に収まっている、というものです。
古賀の見立てはルーティンでした。ルーティンをつくる理由は、動きを自動化された状態のまま出すため。普段と違うことを考えたり違う動きをイメージしたりすると前頭前野や運動野が働き、自動化された動きが崩れてしまう。だから時間をかけない。「時間をかけるほど考える時間が増えて邪念が増える、というのはあくまで自分の推論ですが」と断ったうえで、上手い人ほど「自分の動きは自動化されている、あとはイメージして打つだけだ」という状態を確立していると話しました。真似されたり、ときに揶揄されたりもするルーティンは、本来持っているパフォーマンスを引き出すための仕組みだったわけです。
前山さんが指導で最も答えに困る質問が「パターの距離感はどうしたら合うのか」だといいます。グリーンの速さもホールごとの残り距離も毎回違うため、言語化がとても難しい。たどり着いた答えが、ロングパットをカーリングの第一投だと考えてもらうことでした。カップの周りの円の中に止めるつもりで、止まるところまでイメージしてもらう。すると初心者の方でもタッチが合ってくるそうです。これも、まさに外的焦点です。
日常動作と、トレーニング指導にも同じことが言える
この話はゴルフだけのものではありません。私たちは日常生活で筋肉を意識して生きてはいません。コップを取る、階段を上る。目的があれば、脳が勝手に体を動かしてくれます。
だからこそ古賀は、ピラティスや筋トレには構造的な弱点があると言います。「ここを動かしてください」「お尻を引き込んでスクワットしてください」といったキューイングは、基本的にインターナルフォーカスになるのです。もちろん、それは動きを作るうえで欠かせません。ただ、そこで終わってはいけない。ターゲットに向けるようなキューイングまで持っていき、外的焦点でパフォーマンスが出る状態に着地させる。歩いているときに筋肉を意識していなくても適切に筋肉が働く。そこまで運ぶのが、運動指導者の役割だという考え方です。
まとめ
上達とは、考えることを増やすことではなく、考えなくてもできることを増やすことです。
- インターナルフォーカス(内的焦点)は、修正のために行うもの
- エクスターナルフォーカス(外的焦点)は、それを発揮するために行うもの
- 練習ではしっかり考える。本番では自動化した動きを信じ、外側にイメージを持ってやり切る
- コースで崩れたら、体ではなくターゲットや球筋に意識を戻す。これは上級者ほど自然にやっていること
最後に前山さんから、ゴルファーへの一言がありました。「ベストスコアが出た日でも、その日のスイングは崩れています。かえって必ず修正してください」。発揮する日と、修正する日を分ける。今回の話が最後にもう一度ここへ戻ってくるのが、対談回らしい締めくくりでした。
RePro(横浜市鶴見区)では、こうした運動学習や脳科学の視点も踏まえながら運動指導を行っています。前山さんは横浜市内でゴルフレッスンを展開されています。
この回の内容は、Podcast「RePro RADIO」第7回でお聴きいただけます。