今回のRePro RADIOは特別編です。いつもは姿勢や運動、体のしくみといったテーマを扱っていますが、この回はゲストMCのトキさんが進行役となり、RePro代表でトレーナーの古賀武揚に質問を投げかけていく構成でお届けしました。
きっかけは、トキさんの「どんな知識かの前に、どんな人がその知識を発信しているのかを知ってほしい」という提案でした。トレーナーを志すまでの道のり、二度の挫折、クライアントと向き合うときに一番大切にしていること、そして学び続ける理由。番組内で語られた内容を、質問と回答の形で整理してお届けします。
どんな子ども時代を過ごしてきたんですか?
生まれは長崎県の大村市、育ちは佐世保市です。小学校は地元の学校に通い、その頃からずっとサッカーをしていました。ポジションはフォワードとサイドバック。「ボールを前に蹴って、あとは直線に走ってみんなを抜く」というプレースタイルで、当時は佐世保市内で「機関車トーマス」という異名がついていたそうです。ちなみに履いていたスパイクは、周りが有名メーカーのモデルを選ぶなか、消費税5%の時代に特大セールで1,050円だった一足でした。
中学からは長崎県内の私立に進学します。理由は「高校のサッカーが強かったから、中学のうちから入っておこう」というもの。ただ当時その中学にはサッカー部がなく、実際は地元のクラブチームでプレーしていました。ポジションはゴールキーパー。そして高校は長崎日本大学高等学校で、日本一を目指してボールを追う3年間を過ごします。かつてゴールマウスを守っていた人が、今はクライアントの体を守っている——番組では、そんなやり取りもありました。
トレーナーという仕事を目指したきっかけは何だったんですか?
小学校からサッカー一筋で、将来はサッカー選手になりたいと思っていました。ところが高校に入って「上には上がいる」ことを知ります。本気で取り組み、努力もしていた。それでも同時に、自分の才能の限界のようなものを感じ始めた時期があったといいます。
そんなときに知ったのが、スポーツ選手を支えたり、体やパフォーマンス向上に関わる仕事があるということでした。高校のトレーナーから学ぶ機会があり、その瞬間に「あ、これだな」と思ったそうです。環境が整っていて、当時頭がいいと言われていた法政大学を目指すと決めたのですが、それを決めたのは高校3年生のとき。学校の先生からは「さすがに受からないと思う」と言われたことを今でも覚えているといいます。
出遅れている自覚があったため、6月の高校総体で一度区切りをつけ、受験に集中するためにサッカー部を辞めようと監督に伝えに行きました。すると返ってきたのが、この言葉でした。
「最後まで高校サッカーをやりきらなかったやつが、将来何を教えられるんだ」
かなり刺さった一言で、今振り返っても本当にありがたい言葉だったと語っています。そこで、サッカーからも受験からも逃げないと決めました。
- 放課後はしっかり部活でサッカー
- 寮に帰って、夜は23時から勉強
- 引退は12月。1月に追い込み、2月に受験
この生活を続けた結果、法政大学に合格。職員室が騒ぎになったというエピソードも紹介されました。
これまでに挫折した経験はありますか?
大きく2つあると答えています。1つ目は大学・大学院での経験です。高校まではそこそこ勉強ができる方だったのに、大学、そして大学院に進んで「自分の世界がこんなに狭かったのか」と知ったといいます。
衝撃を受けたのは、周りの頭の良さそのものよりも知的好奇心でした。みんな本当に知りたがる。自分で調べ、論文を読み、学び続ける。その姿勢がすごかったと振り返ります。正直かなり劣等感を感じ、一時期は遊びに逃げた時期もあったそうです。それでも最終的には「自分も体のことをもっと知りたい」と思うようになり、少しずつ勉強を重ねて、そのまま法政大学大学院へ進みました。
2つ目は独立のタイミングです。以前働いていたジムを、急に辞めることになりました。お金にも余裕がなく、かなり不安だったといいます。もともと独立への願望はあったものの、現実として働く場所がなくなったとき、「もう自分でやるしかない」と思って始めたのがReProでした。大学では自分の未熟さを、独立のときには自分の無力さを知った——今の自分があるのは、その二度の経験があったからだと語っています。
クライアントさんと向き合うときに、一番大切にしていることは何ですか?
まず前提として、知識は絶対に必要だと話します。大学・大学院で学び、今も勉強を続けているのは、体に関わる仕事だからです。そのうえで一番大切にしているのは「優しさ」だといいます。
ここで言う優しさとは、その人の体のことを誰よりも真剣に考えること。少なくとも体に関しては、世界で一番その人のことを考えようと思って、いつも向き合っているそうです。
面白いのは、その気持ちがなんとなく相手に伝わるということ。言葉だけでなく、声のトーンや表情、仕草を通じて伝わっていくといいます。逆に言えば、どれだけ正しいことを言っていても、信頼されていなければ届かない。だからこそ、まず人として向き合うことを一番大切にしている、というのが古賀の答えでした。
人生で影響を受けた人物は誰ですか?
挙げたのは、ヒップホップアーティストのノリキヨさんでした。ヒップホップに出会ったのは小学校6年生ごろ。当時は今ほどメジャーではなく、周りに聴いている人もほとんどいなかったそうです。自分でいろいろ掘り進めていく(ディグる)なかでたどり着いたのが、ノリキヨさんでした。
惹かれた理由は2つあります。1つは「主人公は自分だ」という感覚です。ヒップホップにはお金や成り上がりのイメージもありますが、古賀にとっての魅力はそこではなく、曲を聴きながら自分自身の人生と向き合えるところ。同じ曲でも、そのときの自分によって響く部分がまったく違うといいます。
もう1つは、世間のイメージとは逆かもしれませんが、当たり前の日常を大切にするという価値観です。家族がいること、仲間がいること、仕事ができること、朝起きて普通に一日が始まること。人はどうしても「もっと上へ」「もっと成功したい」と考えがちで、それももちろん大事だけれど、振り返ると人生で本当に大切だったのは当たり前の日常の中にあると感じるそうです。番組では、幸福度の研究を見ても、お金や地位より良好な人間関係が大きく関わっているという話も出ました。
だから、感謝はなるべく言葉にするようになったといいます。ありがとうを伝えること、相手のいいところを見つけたら褒めること。思っているだけでは伝わらないからです。クライアントにも日頃から感謝を伝えているのは、音楽から学んだ価値観の一つだと語っています。バイブルは「俺たちの歌」という曲。通勤中やトレーニング中に、ほぼ毎日聴いているそうです。人の痛みや苦しさは誰もが抱えていて、基本的にはそれを隠して生きている。そこに柔らかく触れながら、それでも自分の人生の主人公は自分だと歌う曲だといいます。
なぜ今も勉強を続けているんですか?
もともとは、筋肉を大きくすることやスポーツパフォーマンスを上げることにしか興味がなかったそうです。ところが勉強していくうちに気づいてしまいました。体は、そんなに単純ではないということに。
筋肉だけでなく神経もあるし、睡眠もある。知れば知るほど体は底なし沼で、だから全然飽きないし、むしろ面白くなっていく。そして、目の前のクライアントがもっと幸せになるためには何が必要なのかを考えると、筋肉をつけるだけでは語れない。それが学び続ける一番の理由です。
加えて、単純に楽しいから、という理由もあります。好きこそ物の上手なれ。サッカーが好きだったから努力が自然にできたのと同じで、好きでなければ続かない、と話していました。
なぜPodcast「RePro RADIO」を始めようと思ったんですか?
パーソナルトレーナーとして日々感じるのは、目の前のクライアントにしか伝えられない、ということでした。一方で勉強を重ねるうちに、「これを知っているだけで人生が豊かになる人がいるだろうな」と思うことがたくさん出てきたといいます。姿勢のことも、運動のことも、ダイエットのことも、知っているだけで無駄に悩まなくて済むことがたくさんある。だったらもっと多くの人に届けたい。それがRePro RADIOを始めた理由です。
ただし、知識だけで人生が変わるわけではありません。最後に行動するのは本人だからです。だから自分にできるのは、きっかけを作ること。「人生を変えたいわけではなく、人生が変わるきっかけを作りたい」。このラジオを聴いた誰かが、少しでも体を大切にしようと思ってくれたら嬉しい——そう語っていました。
まとめ
知識ではなく「話している人」に焦点を当てた特別編でした。振り返ってみると、どの答えにも共通していたのは人との関わりです。部活の監督の言葉、大学院で出会った仲間、家族、そして独立してから出会ったクライアント。「人生の節目を自分一人で乗り越えた記憶があまりない」「誰かの言葉や応援に背中を押してもらってきた感覚がある」と話していました。
- 指導で一番大切にしているのは、その人の体を誰よりも真剣に考えるという意味での「優しさ」
- 学び続ける理由は、体が底なし沼で面白いから。そして筋肉をつけるだけでは語れないから
- ラジオの目的は、人生を変えることではなく、変わるきっかけを作ること
ちなみにオフの日はゴルフやサウナ、最近はランニングもしているとのこと。筋トレについては趣味というより、自分にとって大切なもので、科学的にもやった方が得だと分かっているからやる、という感覚だそうです。最後は「体づくりもそうですが、誰かの人生が前向きになるきっかけになればと思ってやっています。多分、自分は人が好きなんだと思います」という言葉で締めくくられました。
この回の内容は、Podcast「RePro RADIO」第8回でお聴きいただけます。