重いものを持てば筋肉は大きくなる。トレーニングをしている人なら誰もが知っていることですが、では「なぜ大きくなるのか」と聞かれると、答えに詰まってしまう方は少なくありません。
Podcast「RePro RADIO」第11回のテーマは、筋肥大の科学・前編。RePro代表でトレーナーの古賀武揚が、筋肉の構造から、筋肉が太くなるスイッチが入るまでの流れを解説しました。具体的な実践方法は後編に譲り、今回はその土台となるメカニズムを整理します。
筋肉は「マトリョーシカ」のような入れ子構造
腕を触ってみると、筋肉はひとかたまりのように感じられます。ですが実際の中身は、細かい構造が何重にも入れ子になっています。
- 筋肉の中には、筋束という束がある
- その束の中に、筋線維がある
- さらに筋線維の中に、筋原線維という細い構造がある
- そして筋原線維の中に、アクチンとミオシンという2種類のタンパク質が並んでいる
「まさにマトリョーシカですね」と古賀。開けても開けても、さらに細い繊維が出てくるイメージです。この一番奥にあるアクチンとミオシンが、今回の主役になります。
筋肉は「縮む」のではなく「手繰り寄せている」
筋肉はゴムのように縮む、と思っている方は多いのですが、実はそうではありません。筋肉は、アクチンがミオシンを手繰り寄せることで縮みます。綱引きのロープを、少しずつ手元に引き込んでいくような動きです。
つまり、筋肉そのものが縮んでいるというより、中のタンパク質同士が滑り込むように動いている。これを滑走説と呼びます。歩く、立つ、ダンベルを持つ——日常の動作からトレーニングまで、すべてこの動きが土台になっています。
では、筋トレをすると何が起きているのか
ダンベルを持ち上げる場面を想像してみてください。重ければ重いほど、アクチンとミオシンは強い力を発揮しなければなりません。その結果、筋肉に機械的張力(メカニカルテンション)が加わります。
ここで、よく耳にする話があります。「筋肉は壊れるから大きくなる」。壊して、修復されて、太くなる、という説明です。
古賀によれば、これは以前そう考えられていたもの。筋損傷がゼロというわけではありませんが、現在は、筋肥大を起こす最も重要な刺激は機械的張力だと考えられています。壊れたから大きくなるのではなく、強い張力がかかったことを細胞が感じ取ることのほうが重要だ、というわけです。
センサーが感じ取り、「工場長」が指令を出す
では、その張力を筋肉はどうやって感じているのか。筋肉の中には、張力を感じ取るセンサーがあります。難しい名前がいくつもあるのですが、今回は「筋肉のセンサー」くらいに捉えて大丈夫です。
このセンサーが「とんでもない力が加わった」と判断すると、細胞の中でmTOR(エムトール)という経路が活性化します。古賀はmTORを「筋肉工場の工場長」と表現していました。タンパク質をもっと作れ、という指令を出す役どころです。
指令が出ると筋タンパク合成が進み、筋線維が少しずつ太くなっていく。これが筋肥大です。だから筋トレは、筋肉を壊す作業というよりも、筋肉に「大きくなる理由」を教えている作業に近い、と言えます。
筋トレは、重さを競う競技ではない
今回いちばん伝えたかったのは、筋トレはただ重いものを持てばいいわけではない、ということ。筋肉にしっかり張力を感じさせることが大切です。
たとえば次のようなケースでは、扱う重量が重くても、筋肉が十分な張力を感じられないことがあります。
- 反動だけで挙げてしまっている
- 可動域が極端に浅い
逆に、適切なフォームで筋肉に張力をかけ続けることができれば、重量だけにこだわらなくても筋肥大は十分に起こります。ただし、ここで勘違いしてほしくないのは、重量が大事でないという意味ではないということ。重さも大事です。そのうえで、筋トレは重さを競う競技ではなく、筋肉にどれだけ張力をかけられるかが本質だ、と古賀は話していました。
まとめ
第11回で押さえたのは、次のポイントです。
- 筋肉は、筋束→筋線維→筋原線維→アクチンとミオシン、という入れ子構造
- 筋肉はゴムのように縮むのではなく、アクチンがミオシンを手繰り寄せている(滑走説)
- 筋肥大を起こす最も重要な刺激は、現在は機械的張力(メカニカルテンション)だと考えられている
- センサーが張力を感じ取るとmTORが働き、筋タンパク合成が進んで筋線維が太くなる
- 重量そのものよりも、筋肉に張力をかけられているかどうかが本質
次回の後編では、この機械的張力を最大化するにはどうすればいいのか。重量、回数、セット数、頻度といった実践に役立つ内容を、最新のエビデンスをもとにお話しします。
この回の内容は、Podcast「RePro RADIO」第11回でお聴きいただけます。