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筋肥大に魔法はない — 張力・可動域・週10〜20セットという現実解

筋肥大に魔法はない — 張力・可動域・週10〜20セットという現実解

前編にあたる第11回では、筋肉が大きくなる仕組みそのものを扱いました。アクチンとミオシンが力を発揮し、そこで生まれる機械的張力(メカニカルテンション)が、筋肥大にとって最も重要な刺激になる。前編はその「なぜ」の話でした。

後編となる第12回は、その続きです。では実際、どんなトレーニングをすれば筋肉は大きくなるのか。RePro代表の古賀が、最新のエビデンスと現場での実感を行き来しながら整理しました。先に結論から書いてしまうと、筋肥大に魔法はありません。ただし、優先順位はあります。

「これだけやればいい」という条件は存在しない

本題に入る前に、代表の古賀がまず伝えたいと言っていたことがあります。それは、筋肥大は「これだけやれば大きくなります」という単一の条件で説明できるものではない、ということです。

実際に関わってくる要素を挙げるだけでも、これだけあります。

  • 強度(どのくらいの重さを扱うか)
  • 回数とセット数
  • 可動域
  • 睡眠
  • 栄養
  • ストレス

筋肥大は、こうした無数の変数が組み合わさって起こる現象です。だからこそ、SNSで流れてくる「これが最強」という一点突破の情報は、そもそも構造として無理があります。

とはいえ、すべてが等しく重要なわけでもありません。優先順位はつけられます。この記事はその優先順位の話だと思って読んでいただければと思います。

ひとつだけ選ぶなら、十分な機械的張力を与えること

「結局、一番重要なのは何ですか」という問いに対して、古賀の答えは明快でした。筋肉に十分な機械的張力を与えること。前編で扱った、あのメカニカルテンションです。

2021年に発表されたレビューでも、現在の筋肥大理論において機械的張力が筋肥大を引き起こす最も重要な刺激であると位置づけられています。ここは前編と後編をつなぐ背骨の部分です。

この視点に立つと、筋トレの目的の置き方が変わります。筋トレは、重いものを持つことが目的ではありません。対象の筋肉に質の高い張力を与えることが目的です。言い方を変えれば、重量はあくまで張力を生むための手段であって、そこがゴールではないということです。

以降で出てくる回数・追い込み方・可動域・ボリュームの話は、すべて「では、その張力をどうやって十分に与えるか」という一本の問いに紐づいています。

重い・軽いよりも、限界にどれだけ近づいたか

次によく聞かれるのが、「やっぱり重い重量が一番なんですか」という質問です。

2017年に発表されたメタアナリシスでは、軽い重量でも重い重量でも、限界近くまで行えば筋肥大はほとんど変わらないという結果が出ています。しっかり追い込めば、筋肉は成長する。重量そのものよりも、限界にどれだけ近づいたかのほうが効いてくる、という話です。

ただし、これを「じゃあ軽い重量でいい」と受け取ると現実に合いません。軽い重量で限界まで行こうとすると、たとえば30回といった回数が必要になります。これはかなりきついうえに非効率で、時間もかかり、全身の疲労も大きくなります。

そこで、現場での実際の運用として古賀が挙げたのが、6〜15回くらいで限界が来る重量という範囲です。研究上は軽くても重くても差がないとしても、続けやすさや疲労の残り方まで含めて考えると、この幅が最も効率がいいという判断です。

RIRという物差し。追い込みは0〜3で足りる

ここで「追い込む」という言葉の定義をそろえておきます。トレーニングの世界にはRIR(Reps In Reserve)という指標があります。日本語にすると「あと何回できたか」です。

  • あと2回はできそうだが、その2回で限界 → RIR2
  • もう1回も上がらない、完全に限界 → RIR0

2021年のレビューでは、RIR0から3程度であれば筋肥大に大きな差はないと報告されています。つまり、毎回気絶するほど追い込まなくても構わない。一方で、余裕を残しすぎれば十分な張力は得られない。この両側から挟まれた範囲が、狙いどころということになります。

そのうえで、どこに置くかは人によって変わります。古賀自身の場合は、RIR0まで追い込むと筋肉の疲労よりも先に中枢(脳)の疲労が来てしまい、次のセットに大きく影響してしまうそうです。そのためRIR1〜2で止めることが多いとのこと。逆に中枢の疲労からの回復が早い人であれば、RIR0〜1まで追い込んで問題ありません。

「何回で限界にするか」も「どこで止めるか」も、正解が一つに決まっていないのはこのためです。

伸ばされた位置で受け止める。いま注目されている可動域

重量以外で、最近かなり注目されている要素が可動域です。

2023年に発表されたメタアナリシスでは、筋肉がしっかり伸びる可動域を使ったほうが筋肥大には有利とされています。たとえばスクワットなら、浅くしゃがむより深くしゃがんだほうが筋肉はより伸ばされます。ダンベル種目でも、下までしっかり伸ばす。この伸びた位置で張力を受けることが重要視されているわけです。

ここで、重量偏重の落とし穴が見えてきます。重さばかりを追いかけると、フォームが崩れたり、可動域が狭くなったりします。すると結果的に、十分な張力が筋肉に伝わらないという事態が起こり得ます。重くしたのに効いていない、という状態です。

もうひとつ、怪我のリスクもあります。仕事で疲れきっている日や、頭を使いすぎて脳が疲れている日に高強度のトレーニングを行うと、筋肉をうまく制御できなくなり、肉離れにつながることがあります。その日のコンディションと強度設定は、切り離して考えられません。

週10〜20セット、そして週2回という現実的な線

では、どのくらいの量をこなせばいいのか。研究では、週10〜20セット程度が効果的とされています。

ただし、この数字は全員に同じようには当てはまりません。

  • 初心者は、少ないセット数でも十分に伸びる
  • 上級者になるほど、必要なボリュームは増えていく

同じ人間でも段階によって最適解が動きますし、人が違えばなおさら違います。誰かがうまくいっているボリュームを、そのまま自分に移植しても噛み合わないことがある、ということです。

頻度についてはどうか。総ボリュームさえそろえてしまえば、週1回でも週2回でも大きな差はないというのが研究上の話です。それでも古賀が週2回程度に分けることをすすめるのは、現実的な理由からです。疲労を分散できますし、1回あたりの負担が軽くなる分、フォームの質も保ちやすくなります。とくに初心者の方にはこちらをおすすめしています。

また、しっかり追い込んだ翌日に同じ部位を同じ強度で動かすことは、そもそも難しいものです。同じ部位には間隔を空ける。昔から言われてきたこの習慣は、疲労の回復という点で理にかなっています。

まとめ

第12回でいちばん伝えたかったことは、シンプルです。筋肥大に魔法はない

SNSを開けば「この種目が最強」「この重量設定が最強」といった情報がいくらでも流れてきます。けれど体はそこまで単純にできていません。筋肥大は、無数の変数が組み合わさって起こる現象です。

だからこそ、ひとつの情報に振り回されるのではなく、原理を理解する。そのうえで、自分に合った方法を地道に積み重ねる。遠回りに見えて、それが一番の近道だというのが、代表の古賀の結論でした。

今回整理した優先順位を、もう一度並べておきます。

  • まず、対象の筋肉に十分な機械的張力を与える
  • 重量そのものより、限界への近さ。目安は6〜15回で限界が来る重量
  • 追い込みはRIR0〜3の範囲。自分の疲労の出方で位置を決める
  • 筋肉が伸ばされる可動域を使い、伸びた位置で張力を受ける
  • 量は週10〜20セット程度を目安に、週2回程度へ分ける

次回のRePro RADIOは、リスナーの方からの声が多かったテーマ「筋肉痛」を扱う予定です。

この回の内容は、Podcast「RePro RADIO」第12回でお聴きいただけます。

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