あれだけ追い込んだのに筋肉痛が来ない日は、今日のトレーニングに意味はあったのだろうかと不安になる。反対に、階段を降りるのもつらいほどの筋肉痛が出ると、しっかり効いた証拠だと手応えを感じる。SNSでも「筋肉痛が来る種目」という切り口の動画はよく流れてきます。筋肉痛には、努力した実感がともないます。
Podcast「RePro RADIO」第13回では、その当たり前を一度疑ってみる回として、代表の古賀が筋肉痛をテーマに話しました。結論から先に言うと、筋肉痛と筋肥大は、似ているようでまったく別の現象です。まずはそこを整理するところから始めます。
筋肉痛の正体は「壊れた痛み」ではなく「修復の反応」
筋肉痛には正式名称があります。遅発性筋痛(ディレイド・オンセット・マッスル・ソアネス、略してDOMS)。研究の界隈でもトレーナーの界隈でも「ドムス」と呼ばれることが多い、遅れてやってくる痛みのことです。一般的には24〜72時間ほどでピークを迎える痛みを指します。
そして、ここが今回いちばん先に知っておいてほしいところなのですが、この痛みは筋肉が大きくなっている痛みではありません。筋肉痛というと、筋肉がボロボロになっているイメージを持たれがちですが、そもそも筋線維そのものには、痛みを感じる受容器がほとんどないと考えられています。つまり、筋肉自体が「痛い」と訴えているわけではないのです。
では私たちは何を痛みとして感じているのか。現在もっとも支持されているのは、運動によって起きる微細な組織の損傷と、それを修復する過程で起きる炎症反応だという考え方です。筋トレをすると、筋線維だけでなく筋膜や結合組織にも小さなストレスが加わります。体がそれを修復しようと働き始めるとき、炎症性のサイトカインなどが放出され、痛みを受け取る神経の感受性が高まる。
組織が壊れているから痛いのではなく、修復のために体が起こしている反応を痛みとして感じている。これが今のコンセンサスです。そう捉えると、筋肉痛そのものは悪いものではなく、体が環境に適応しようとしている自然な反応だと言えます。
「乳酸がたまるから痛い」は、時間が合わない
古賀が学生の頃は、教科書によっては「乳酸がたまるから筋肉痛になる」という説明がまだ残っていたそうです。いわゆる乳酸説ですね。長くそう信じていたという人も多いはずですが、この説明は現在ではほぼ否定されています。
理由はとてもシンプルで、時間が合わないからです。乳酸は運動が終わったあと、比較的短時間で代謝されます。数十分から数時間でほぼ処理されてしまう。一方で筋肉痛は、翌日、あるいは2日後あたりにピークを迎えます。痛みが強くなる頃には、犯人とされていた物質はとっくにいなくなっている。タイムラインが噛み合わないわけです。
かつての常識が、研究の進展によって塗り替えられることは珍しくありません。これはスポーツやトレーニングの世界に限らず、どの分野でも起きていることです。だからこそ、体づくりの情報も、一度立ち止まって確かめてみる価値があります。
筋肉痛は筋肥大の「必要条件でも十分条件でもない」
ここからが今回の核心です。筋肉痛と筋肥大は、日常会話ではほとんど同じものとして語られます。「筋肉痛が来たから成長するわ」という具合です。けれど生理学的には、この2つはまったく異なる現象です。古賀の結論を借りれば、筋肉痛は筋肥大の必要条件でも十分条件でもない、ということになります。
言葉が硬いので、たとえで補います。酸素は、人間が生きるための必要条件です。酸素がなければ生きられない。一方で、酸素があるだけで長生きできるわけではありません。睡眠や栄養など、ほかにもたくさんの要素が要る。筋肉痛はこのどちらでもない、という話です。筋肉痛がなくても筋肥大は起こりますし、筋肉痛があったからといって必ず筋肥大するわけでもない。
研究の側でも、この関係は検討されてきました。2012年には、筋肥大研究の第一人者が「筋損傷は筋肥大に本当に必要なのか」というテーマでレビューを発表しています。その結論は明快で、筋損傷は筋肥大を引き起こす可能性はあるものの、必須ではないというものでした。
もう一つ、示唆的な整理があります。トレーニングを始めたばかりの頃は、筋損傷も筋肉痛も非常に大きい。ところが体がその刺激に適応していくと、筋肉痛はどんどん減っていく。それでも筋肉の成長は継続して起こる。筋肉が損傷することに体が適応しても、筋肉が大きくなることは止まらないのです。
体は「痛み」ではなく「負荷」に適応する
筋肉痛が減ると、成長が止まってしまったように感じます。でも実際は逆で、体は痛みに適応しているのではなく、負荷に適応しているのです。与えられた刺激に対して、次はもう少し効率よく対応しようと学習していく。これを生体適応と呼びます。
スクワットが分かりやすい例です。最初のうちは歩けないほどの筋肉痛になるのに、続けているとほとんど筋肉痛にならなくなる。これは刺激が足りなくなったからではなく、体が賢くなった証拠だと考えられます。
古賀は日焼けにたとえていました。海で真っ赤に日焼けした翌日、肌はヒリヒリします。けれど、ヒリヒリしたからといって肌が健康になったとは言えません。逆に、毎日少しずつ紫外線を浴びている人は、以前ほど赤くならなくても、体はしっかり適応している。筋肉痛も同じで、刺激に対する反応であって、成長そのものではないということです。
いったん整理します。筋肉痛は、体が刺激を受け取ったことを知らせる反応。ただし筋肉痛そのものが、筋肉が大きくなることを保証してくれるわけではない。体は痛みではなく負荷に適応していく。だとすれば追い求めるべきは、強い筋肉痛ではなく、前回より少しだけ質の高い刺激ということになります。
筋肉痛の日に鍛えていいのか。見るのは「痛みの有無」より「機能」
では、筋肉痛がある日にトレーニングをしていいのか。SNSを見ると、筋肉痛でも気合でやれという主張もあれば、絶対に休めという主張もあります。古賀の考えは、痛みの程度によるというものでした。
大事なのは、筋肉痛が「ある・ない」の二択で判断しないこと。それよりも、どれくらい機能が低下しているかを見るほうが役に立ちます。しゃがめない、フォームが明らかに崩れる。そんな状態で高強度のトレーニングをしても、質はどうしても落ちてしまいます。反対に、少し張っているくらいであれば、そのまま行っても問題ないことが多いという整理です。
- しゃがめない、フォームが崩れる状態での高強度は、トレーニングの質が落ちる
- 少し張っているくらいなら、そのまま進めても問題ないことが多い
- 別の部位を鍛える、重量やボリュームを調整するのも立派なトレーニング戦略
トレーニングでもっとも大切なのは、続けられることです。その観点からすると、その日の状態に合わせてボリュームを調整しながら進めるのは、妥協ではなく有効な手だと言えます。
回復に有効なもの、そしてアイスバスの使いどころ
筋肉痛を一瞬で治す方法はありません。ただし、有効性が示されているものはいくつかあります。
まず睡眠です。成長ホルモンの分泌や組織の修復が活発になります。筋肉はジムで大きくなるのではなく、休息中に適応していく。筋トレで壊して、睡眠で作るというイメージです。次に栄養、とくにタンパク質。プロテインの摂り方については、以前の回で詳しくお話ししています。
よく聞かれるストレッチについては、筋肉痛を劇的に改善するというエビデンスはあまり強くないとのことでした。一方で、軽いマッサージやウォーキングなどの軽い有酸素運動は、血流の改善や痛みの軽減に一定の効果があると報告されています。治すというより、和らげるイメージで捉えておくとよさそうです。
スポーツ選手が実践しているアイスバスはどうでしょうか。これは目的によって答えが変わります。大会期間中で翌日も試合がある、といった場面では、炎症を抑えて回復感を得るという意味で有効なケースがあります。ただし筋肥大が目的なら話は変わってきます。炎症は悪者に見えますが、適度な炎症反応は体が適応するためのシグナルでもある。毎回アイスバスで炎症を強く抑えてしまうと、長期的な筋肥大への適応を弱める可能性が示されています。
疲れを取ることと、体を強くすることは、必ずしも同じではない。だからこそ、その日の目的に合わせて選ぶ必要があります。
まとめ
筋トレを始めると、どうしても感覚で評価したくなります。今日はパンプした、筋肉痛が来た、汗をたくさんかいた。けれどこれらは、本質的な評価指標ではありません。本当に見るべきなのは適応のほうで、昨日より重量が伸びた、フォームが安定した、1回多く上げられた。こうした変化こそが、体が刺激に適応した証拠です。
古賀がこの回でいちばん伝えたかったのは、追い求めるべきは痛みではなく進歩だということでした。筋肉痛は一つのメッセージであって、それだけでトレーニングを評価することはできません。毎回限界まで追い込んで強い筋肉痛を求める必要があるのかというと、そこは疑問が残ります。とくに始めたばかりの時期に毎回限界まで追い込むと、十分に回復できず、かえって逆効果になることもあります。
適切な刺激を与えて、しっかり回復して、また少しだけ前に進む。ほんの少しずつでも、その積み重ねが1年後に想像以上の変化になります。遠回りを減らして、本質に近づいていきましょう。筋肉痛ではなく、昨日より成長できたか。そこを基準に、トレーニングを続けてみてください。
この回の内容は、Podcast「RePro RADIO」第13回でお聴きいただけます。